日本オープンを世界基準のナショナルオープンへ―J G Aは今、3オープン(日本オープン、日本女子オープン、日本シニアオープン)の改革に取り組んでいる。狙いは、世界に通じるナショナルオープンへとステージを上げること。
まず、今年からドリームステージの設置など日本オープン出場資格変更を実施した。改革の全貌はどのようなものなのか。山中博史JGA専務理事・オープン事業推進本部チャンピオンシップコミッティメンバーに聞いた。

山中博史 JGA 専務理事インタビュー

画像: 3オープン改革の全貌を語る山中博史専務理事。

3オープン改革の全貌を語る山中博史専務理事。

-まず、3オープン改革の狙いをお聞かせください。

山中 :ナショナルオープンと聞いて頭に浮かぶのは英国の全英オープンであり、米国の全米オープンであると思います。いずれも歴史と権威のある大会で、世界では「メジャー」と呼ばれていることはご存じの通りです。ほかのゴルフ先進国と呼ばれる国のナショナルオープンも同様に、その国を代表する大会という位置づけです。翻って国内を考えた時、果たして日本のナショナルオープンはどうなのか。たとえばコースセッティングや賞金額、予選会も含めた出場人数や出場資格、あるいは大会のホスピタリティーや、レフェリー、大会運営など、他国のナショナルオープンと比較して劣ってはいないだろうか、日本国内だけで「日本オープン」という看板にあぐらをかいているのではないかという思いがありました。今年、日本オープンは80回大会を迎えます。この節目に原点に立ち返ってナショナルオープンとはどうあるべきかを考えていこうというのが改革のスタートでした。

-出場資格に関しては今年、日本オープンで大きな変化がありました。象徴的な例がドリームステージの新設だと思いますが。

山中 :まず、日本オープンの出場資格を持たない人が資格を得るための予選会について考えてみました。昨年までの予選会は一次予選、最終予選の2段階で、ハンディキャップインデックス6.4までのアマチュア選手が一次予選に参加できました。今年は一次予選から名称を変えた「地区予選」の下にハンディキャップインデックス取得者ならば年齢や性別、居住地を問わず誰でも参加できる「ドリームステージ」を新設したのです(ハンディキャップインデックス4.9以下の男子アマチュアは地区予選からの出場資格があります)。これには、「オープン競技だから誰に対してもチャンスを与えよう」という意図と、多くのゴルファーに対するJGA/USGAハンディキャップインデックスの取得啓発と言う目的があります。ハンディキャップインデックスの制限を設けない予選会は、ゴルフ先進国と呼ばれている国のナショナルオープンでは前例のないもので、海外の関係者からも驚かれました。「ドリームステージ」の今年の出場者はジュニアからシニアまでの幅広い年齢層、そして女子選手も出場し、13歳から71歳の55名が「地区予選」進出を決めました。「地区予選」からはプロ選手も出てくるのでアマチュアとプロが一緒のフィールドで戦うことになります。誰もが日本オープンに挑戦できる一歩を示した、これこそがまさにドリームステージの魅力が現れていることだと思います。

-今年は関東、東北地区の3会場でドリームステージが開催されました。全国展開ではなく地域を限ったのはどのような理由からですか。

山中 :現在、各地区連盟主催の5つの地区オープン(北海道、中部、関西、中四国、九州)の上位者が日本オープン出場権を得る形になっています。今年はトライアルの意味合いがあり、まずは地区オープンを開催していない関東、東北でやろうということにしたのです。もちろん来年からは全国展開にすること、そして日本女子オープン、日本シニアオープンにも導入を計画しています。

-ドリームステージは3オープンのさらなる進化の起爆剤になり得ますか。

山中 :1回、2回やっただけでは起爆剤になるかどうかは判断できないと思いますが、続けることによって「日本のナショナルオープンはこのような大会です」という意味付けになります。特にJGAは公益財団法人ですから、ゴルファー全員に門戸を広げるナショナルオープンにすることは、非常に大きな意味を持っています。今年も女性も含め、多くの方がエントリーしてくれました。実際にやって分かることもありますから、今年得られた意見や反省、データを来年以降に生かして、よりよいドリームステージにしていきたいと考えています。

-先ほど話に出た地区オープンからの出場枠に関してはどのように考えていますか。

山中 :昨年実績で35人が地区オープンから出場しています。ただ、5つの地区オープンは開催時期や開催日数、それぞれの出場資格も異なります。現在行われていない関東オープンや東北オープンも含めてかつては同時期にすべて4日間大会として開催されていましたから日本オープンの予選を兼ねる意義がありましたが、現在の状況ではそれが薄まっていることは否めません。地区オープンはゴルフ振興において重要な位置を占めており、とても大切な競技です。それを考慮しながらも、やはり予選会のシステムはよりよい形に変えていく必要があります。理想は完全予選会化。ドリームステージをボトムにしたきれいなピラミッド型に整備していくことです。来年以降、地区オープンからの出場枠は今後、各地区連盟と話し合いながら見直していく方向で考えています。

-日本アマなどアマチュアの大会から本選への出場枠が減ったのはどのような理由ですか。

山中 :日本オープンの出場枠は、一昨年までの108人から昨年は120人に増やしましたが、10月第3週という開催時期の日照時間を考えればこれが限度。全米オープンや全英オープンも156人ですが、現状では同じ人数にすることは不可能です。この120人という人数を考えた時、アマチュア選手に与えていた出場枠のバランスが多いのではないかという結論になりました。日本アマを例に挙げれば昨年までは予選のメダリストとマッチプレーのベスト4に与えていた本選への出場資格を今年は優勝者のみに絞りました。そのかわり、上位者には「最終予選」への出場資格を付与します。

-一方で地区予選の出場資格の枠を広げました。

山中 :日本プロゴルフ協会のティーチングプロ会員やワールドランキング保持者にも「地区予選」の出場資格を与えました。さらに、ワールドランキング上位200位までの選手が「最終予選」から、ワールドランキング上位100位のうちの上位5人には「本選」からの出場権を与える形にしました。

-出場資格にワールドランキングを取り入れたということは世界戦略を描いているということですか。

山中 :おっしゃる通りです。昨年はたまたま縁あってアダム・スコット選手が出場してくれましたが、出場資格があったわけではなく「特別承認」という形でした。本来は特別承認ではなく世界トップクラスの選手にきちんとした出場資格を与え、出る、出ないは別にして常に世界に開かれたナショナルオープンであることが必要です。それが日本オープンの権威を高めることにもつながっていくと思います。また、近い将来には日本国内だけでなくアジアンツアーなどとタイアップしてアジア地区でも予選を開催し、アジア各国の選手に勝ち上がっていけば日本オープンに出場できるという道筋をつくっていきたいと考えています。さらに、日本オープンのライブ映像をアジア各国でも視聴できる仕組みをつくりたいという思いもあります。そうすれば、アジアの国々のゴルフファンが自国の選手を、画面を通じて応援できるようになります。日本はゴルフ人口やゴルフ場の数を含め米国、英国に次ぐ世界第3のゴルフ先進国といわれています。その日本のナショナルオープンは少なくともアジアを代表するナショナルオープンであるべきです。

-出場資格を与えたり、海外予選会を新設するだけで世界のトッププレーヤーが興味を示すほど単純なものではないと思いますが。

山中 :もちろん今のままでは何も変わらないと思います。賞金額や舞台づくりなど、より魅力あるトーナメントにして世界のトッププレーヤーや海外で活躍している日本人選手にこぞって「出たい」と思ってもらえるようにしなければなりません。賞金額でいえば世界のメジャーの賞金総額は1000万ドルの時代になりました。日本円にして約12億円です。対して日本オープンは2億円。賞金額を上げるには当然財源が必要ですし、簡単ではありませんが、世界と比べて見劣りしないレベルにまで引き上げたいと考えています。

-舞台づくりについてですが、日本のナショナルオープンのセッティングは物議をかもす場合もありますね。

山中 :いいスコアが出ることをよしとしない風潮があったことは確かです。いいスコアを出させないために誰もドライバーで打たないような狭いフェアウェイにしたり、絶対に寄らないような傾斜にカップを切ったりということもあったかもしれません。しかし、それは選手の技量を正しく測る良いセッティングとはいえません。スコアを無理に操作しようとするのではなく、コースの特性を生かしたフェアなセッティングが望まれます。何も優勝スコアをイーブンパー前後に抑え込む必要はありません。10アンダーパーでも10オーバーパーでもいいのです。ナショナルオープンチャンピオンにふさわしいのは、その週に最も心技体が整った選手です。そのような選手が勝てるような舞台づくりが必要です。これも3オープン改革の一環であり、世界的な流れでもあります。実際に昨年あたりからセッティングは変化してきています。選手も日本オープンに対するイメージが変わってきているのではないかと思います。

-世界基準の舞台づくりで世界が認めるナショナルオープンへと進化していければいいですね。

山中 :メジャーへの出場資格も視野に入れています。現在、日本オープンに勝てば全英オープンに出
場できますが、マスターズ、全米オープン、全米プロへの出場資格はありません。しっかりと日本オープンのコンセプトを説明し、ほかのメジャーの出場資格を与えてもらったり、世界ランキングのポイントのアップも働きかけていきたいと考えています。そのために段階ごとに目標をつくりながらんでいかなければなりません。世界に通じるナショナルオープンを目指すことで日本人選手の出場枠が減るのではないかという意見があるかもしれませんが、それはボーダレス化している今の時代に合う考え方ではないと思います。内向き思考ではいつまでたっても“井の中の蛙オープン”のまま。世界から置いていかれてしまいます。安西名誉会長も「世界から見て恥ずかしくないナショナルオープンをつくっていきなさい」と言っています。タイガー・ウッズやロリー・マキロイが「出たい」と言ってくれるようなナショナルオープンを目指して改革を進めていきます。

-期待しています。ありがとうございました。

画像: -期待しています。ありがとうございました。

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